建設業は今「重大な岐路」にある
JAC広報部長が語る、現場と制度のこれから
「建設業が産業として重大な岐路に立っている」——国土交通省の勉強会でこの言葉が示されたのは、つい最近のことです。長年、建設行政に携わってきたJAC広報部長の山王一郎さんも、「これほど強い表現は初めて」と受け止めたといいます。なぜ今この言葉が出てきたのか。建設業界で今何が起きているのか。そして、これからどう向き合えばいいのか。広報部長に聞きました。
担当者:JAC広報部 山王
「伝える」だけでは自己満足で終わる
現在の役割と、広報にかける思いを教えてください
JACの広報部長として、業界の現状や制度の意図を正しく伝える役割を担っています。ただ、広報というのは「伝える」だけでは不十分だと思っています。ホームページに掲載した、冊子を作った——それだけでは相手は動きません。相手が理解して、行動に移して初めて「伝わった」といえるのです。
そこまで意識しないと、発信する側の自己満足で終わってしまいます。「やってみよう」と思っていただける方を一人でも増やしたい。その思いで講演や広報活動を続けています。
「伝える」ことがゴールではなく、人の気持ちを動かして行動してもらう、「伝わる」ことがゴールと考え広報しています。
各地で講演を行い、発信を続ける山王部長
人手不足の根本は、人口減少にある
建設業界の現状について、あらためて教えてください
国土交通省の勉強会で「建設業が産業として重大な岐路に立っている」という表現が出てきました。長くこの分野に関わってきたなかでも、ここまで強い言葉は初めてでした。それだけ状況が厳しくなっているということです。
建設業は「一品受注生産で屋外産業」です。同じ建物は一つとして存在せず、地盤が違えば施工も変わります。製造業のように標準化や効率化がなかなかできない。だから必ず人が要る。これは構造的な話であり、技術がいくら進化してもゼロにはなりません。
一方で、その「人」を確保することがどんどん難しくなっています。そしてその根底には、日本の人口そのものが減り続けているという、産業全体に共通する大きな前提があります。
少子化の影響は、具体的にどのくらい深刻なのでしょうか?
第二次ベビーブームの頃、年間の出生数は約210万人ありました。それが今や70万人を割り込んでいます。50年で3分の1です。これはもう「少子高齢化」というレベルではなく、本格的な人口減少社会に入ったということです。
日本が人口減少社会に入っているなかで、どの産業も人を取り合っているのです。みなさんがどれだけリクルートをがんばっても、日本人だけで施工体制を維持するのは、構造的に限界が近づいています。
20代の4割はすでに外国人材
業界全体で知っておくべき現実
外国人材の存在感が増しているということでしょうか?
数字で見ると明らかです。CCUS(建設キャリアアップシステム)の登録データを見ると、20代の建設技能者のうち、すでに約37%が外国人材です。さらに増加する可能性があります。
この現実は、受入企業だけが知っていればいい話ではありません。元請けも発注者も含め、業界全体で共有していただきたいと思っています。外国人材なしに現場が成り立たない時代がすでに来ています。受入企業は金銭的な負担だけでなく、生活面まで含めてさまざまなサポートをしながら人材を確保しています。そうした努力が現場でしっかり活かされる環境を、業界全体でつくっていく必要があります。
建設分野の外国人材受入れの背景 出所:総務省「労働力調査」(令和6年平均)をもとに国土交通省で推計
97%が試験なし
その前提が変わる
2027年の制度改正について、何がどう変わるのでしょうか?
技能実習制度が廃止され、「育成就労制度」へ移行します。最も大きな変化は、試験が必須になることです。現行制度では、技能実習2号から特定技能1号への移行は、技能実習2号を良好に修了すれば試験なしでできました。その割合が97%です。ところが育成就労制度では、各段階で日本語と技能の試験が課されます。企業は受けさせる必要があり、本人も合格しなければなりません。
もともと「育成して戦力にする」という考えで取り組んできた企業からすれば、制度が実態に追いついてきただけの話です。逆に外国人材を安い労働力と考えている企業にとっては、大きな転換になります。いずれにせよこの制度改正は、外国人材を短期的な人員確保としてではなく、中長期的に建設業を担う人材として育成する方向へ、制度として舵を切ったということです。経営者としても、この変化をしっかり受け止めて準備を進めていただきたいと思います。
賃金では勝てない
では、何で勝負するか
外国人材に選ばれる産業であり続けるために、何が大切になりますか?
率直に言うと、賃金面では日本はすでに競争が難しい状況です。2000年頃、ベトナムと日本の賃金格差は約80倍ありました。それが今は5〜6倍程度にまで縮まっています。韓国、中東、オーストラリアのほうが、給料が高く賃金面では勝負になりません。
だからこそJACは、みなさまからいただいた受入負担金収入をもとに、特別教育・技能講習、日本語講座、日常生活サポートなどの支援を用意しています。「面倒見がいい日本の建設業」と感じてもらうことが、これからの人材確保の鍵です。今日本にいる外国人材が「来て良かった」と感じて、母国の仲間に伝えてくれる。そうした口コミこそが、これからの競争力になると考えています。
最後に、会員企業のみなさんへメッセージをお願いします
この問題は、受入企業だけががんばっても解決しません。発注者も元請けも含めた、サプライチェーン全体で取り組むべき課題です。受入企業が苦労して確保した人材が、現場で活かされない状況が続けば、誰も受け入れようとしなくなってしまいます。「持続可能な建設産業」は、みなさん一人ひとりの判断と行動の積み重ねでしか実現できません。JACとしても、その取組みをしっかり支えていきます。ぜひ一緒に考えていただければと思います。
業界の現状を、熱を込めて語る