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MOVEMENT / 海外の動向

CASE / 事例 2026.05.29
MOVEMENT 海外の動向

圧接技術を武器に世界へ
飛び込み営業から始まった挑戦

東海ガス圧接株式会社 

 鉄筋コンクリートの建物を支える重要な技術の一つが「ガス圧接」です。東海ガス圧接株式会社では、東京ガスグループと共同で天然ガスを活用した新しい圧接技術「エコスピード工法」を開発しました。この技術を日本だけでなく海外にも広げたいという思いから、ベトナムでの事業展開に挑戦しています。飛び込み営業から始まった海外進出、そして日本で技術を学んだ外国人材が母国でも活躍できる仕組みづくり——。中小企業ならではの視点で進める海外展開について、宮口社長にお話を伺いました。

聞き手:JAC編集部 2025年3月26日取材

代表取締役 宮口 樹哉 TATSUYA MIYAGUCHI

代表取締役 宮口 樹哉 氏 TATSUYA MIYAGUCHI

海外展開の手応えを語る宮口社長

飛び込み営業から始まったベトナム進出
御社の技術について教えてください

 当社が手がけているのは、鉄筋コンクリート構造に欠かせない「鉄筋継手(てっきんつぎて)」の技術です。鉄筋継手とは、鉄筋同士を接合する工程のことで、建設現場では鉄筋を1層ごとに組み立てるため、上下階の柱や梁の鉄筋をつなぐ必要があります。構造物の安全性を確保するうえで、非常に重要な役割を担う工程です。
 その代表的な方法がガス圧接で、鉄筋の端部を高温で加熱し、圧力をかけて一体化させる工法です。現場では施工精度や安定した品質が求められるため、確実に接合できる技術として広く用いられています。
 当社では2005年頃から東京ガスグループと共同で天然ガスを用いた圧接技術の研究開発を進めてきました。従来主流のアセチレンガスに比べ、作業時の安定性や環境への配慮といった面で優位性が期待されています。その成果が「エコスピード工法」です。鉄筋の接合部分に特殊なリングを使用することで酸化を防ぎながら接合でき、施工品質の安定にもつながります。(公社)日本鉄筋継手協会の認定も取得しています。こうした技術開発を進めるなかで、この圧接技術を日本だけでなく海外でも活用できるのではないかと考えるようになりました。

接合部の品質を安定させる「PSリング」

接合部の品質を安定させる「PSリング」

ベトナム展開のきっかけを教えてください

 圧接の技術を日本だけでなく、海外のいろいろな国で活かせる可能性がないかということは以前から考えていました。そこで2012年頃から、日本人のビジネスパートナーと一緒にベトナムへ行き、市場調査を始めました。とはいえ、最初は何のつてもありませんでした。
 当初は別の通訳の方にサポートしてもらっていましたが、2回目の渡航からは、日本人パートナーの縁で日本の大学に留学していたベトナム人学生のチエンさんに通訳を依頼しました。
 まずはチエンさんと3人で、建設現場を見つけては飛び込みで話を聞きに行きました。「日本にはこういう圧接技術があるのですが、ベトナムで広がると思いますか」と英語のチラシを配りながら、現場を回っていたのです。すぐに成果が出るわけではありませんでしたが、少しずつ現地の建設会社や技術者とつながりができていきました。
 そんな活動を3年ほど続けているうちに、チエンさんが大学を卒業して帰国することになりました。その時、彼が「ベトナムで圧接の会社をやりたい」と言ってくれたのです。現在はベトナムで起業し、現地法人の社長として事業に関わる存在になっています。そこから現地企業と協力しながら、技術面や営業面でサポートする形で事業が始まりました。2015年以降は展示会などにも出展し、ベトナムで圧接技術の普及を進めています。

ベトナムでの初施工の柱筋の圧接作業

ベトナムでの初施工の柱筋の圧接作業

赤熱した鉄筋を圧力で一体化させる圧接工程

赤熱した鉄筋を圧力で一体化させる圧接工程

海外市場に見えた日本技術の可能性
実際に海外で事業を進めてみて、どのような可能性を感じましたか?

 最初は、海外で圧接という仕事が成立するのか半信半疑でした。しかし現地の建設会社と話をしていると、日本の技術に関心を持ってくれる企業は少なくありませんでした。特にインフラ整備が進んでいる国では、鉄筋コンクリート構造の建物が増えています。そうなると鉄筋の継手技術は必ず必要になります。日本では当たり前になっている技術でも、海外ではまだ導入されていないケースがあります。ガス圧接という工法自体、世界的に見ると決して一般的とはいえません。だからこそ、日本の圧接技術が活躍できる余地があると感じました。

世界でも日本の技術が通用すると感じますか?

 はい。海外の建設現場を見ていると、日本では長年かけて積み上げられてきた施工技術や品質管理の水準が、世界的に見れば決して当たり前ではないということを感じます。日本の建設業では安全管理や施工精度について細かな基準が整備されていますが、国によってはまだそこまで体系化されていない場合もあります。だからこそ、日本で培われてきた技術やノウハウには海外で活かせる可能性があるのではないかと思います。私たちの圧接技術も、その一つの例です。決して特別なことをしているわけではありませんが、日本で当たり前に行われている技術が、海外では新しい価値として受け入れられることもあるのです。
 また、日本企業が海外で事業を進める場合、現地企業とのパートナーシップが非常に重要だということも実感しました。現地の事情やネットワークを理解している企業と協力することで、初めて事業が動き始めるのだと思います。

ベトナム、ニンビンでの商業施設の梁の圧接作業

ベトナム、ニンビンでの商業施設の梁の圧接作業

外国人材の受入れについても教えてください

 海外展開と外国人材の受入れは、私のなかでは最初からつながっています。日本の建設業では技能実習制度があり、日本で働いた外国人が母国へ帰るケースは多くあります。ただ、せっかく日本で覚えた技術が母国で活かされていないことも少なくありません。それを見て、「これはもったいない」と感じました。もし母国に圧接の仕事があれば、日本で覚えた技術をそのまま活かすことができます。現地に会社があれば、その受け皿にもなります。実際、当社で働いているベトナム人たちも、日本で仕事を覚えながら「将来ベトナムでも同じ仕事ができるかもしれない」という可能性を感じているはずです。

エコスピードベトナム社員の実技教育

エコスピードベトナム社員の実技教育

現地法人メンバー(左2人目チエン社長)

現地法人メンバー(左2人目チエン社長)

技術と人材の循環を日本から世界へ
海外で仕事をするなかで、日本との違いを感じることはありますか?

 海外で仕事をするようになって、日本の見方はかなり変わりました。日本は街がきれいで、人も親切だといわれます。もちろんそれは日本の良いところだと思います。ただ海外でビジネスをしていると、日本の良いところがそのまま弱みにもなると感じることがあります。日本人は遠慮して自分の意見を強く言わないことがありますが、海外では言うべきことを言わないと話が進まないことも多いのです。
 また、ベトナムやインドネシアの街は、日本人からするとごちゃごちゃとしているように見えるかもしれません。街の様子は、商品が所狭しと並ぶ店のように雑然としています。でも私は、あれが生きる力だと思っています。とにかくみなが必死に働いている。そのエネルギーが街全体にあって、国の成長を支えているのではないかと感じます。
 海外事業というと華やかに見えるかもしれませんが、実際は現地で一つひとつ関係を築きながら進めていく泥くさい仕事の積み重ねです。そうした積み重ねのなかで、少しずつ事業の形が見えてくるのだと思います。

ミャンマー初施工の柱筋の圧接作業

ミャンマー初施工の柱筋の圧接作業

今後の展開について教えてください

 現在はベトナム、ミャンマーやインドに加え、インドネシア、フィリピンなどでも技術展開の可能性を探っています。フランチャイズのような形で国内企業、現地企業と協力しながら広げていく構想です。同業者から「海外で圧接業をやるのは夢があるよね」という話を聞くことも出てきました。日本企業と現地企業が協力しながら技術を広げていく動きも少しずつ生まれています。もし圧接という仕事が各国で広がれば、日本で技術を学んだ人材が母国へ帰って同じ仕事を続けることも可能になります。
 日本で技術を学び、母国でその技術を活かして働く。そうした循環が世界のさまざまな場所で生まれていけば、日本の建設業が培ってきた技術もまた新しい形で広がっていくのかもしれません。中小企業でも、自分たちの技術を軸に世界とつながることはできる。その可能性を、これからも模索していきたいと思っています。

インドで圧接会社立ち上げお披露目会のデモンストレーション

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