MOVEMENT / 海外の動向

CASE / 事例 2024.03.29
MOVEMENT 海外の動向

気仙沼とインドネシアをつなぐ
リサイクルアスファルト事業

株式会社菅原工業 宮城県気仙沼市赤岩迎前田132

 宮城県気仙沼市で土木工事業を営む株式会社菅原工業は、2015年からインドネシアでリサイクルアスファルト事業を展開し、海外で先導的に活躍している建設関連企業を表彰する国土交通省の『第4回JAPANコンストラクション国際賞(国土交通大臣表彰)』を受賞しています。海外展開をスタートしたきっかけや運営について、代表取締役の菅原渉さんに詳しいお話を伺いました。

聞き手:JAC編集部 2023年8月4日取材

代表取締役 菅原 渉 さん Wataru Sugawara

株式会社菅原工業 代表取締役 菅原 渉 さん Wataru Sugawara

「国をまたいだ架け橋になりたい」と菅原社長

リサイクルアスファルトの普及活動からスタート
事業内容を教えてください

 道路工事で剥がされたアスファルトを再び使用する「リサイクルアスファルト」をインドネシアで製造しています。日本だとアスファルトの再資源化率は99%以上と高い数値を維持していますが、当社が海外進出し合弁会社を立ち上げた2015年当時は、インドネシアでの普及率はほとんどゼロに近い状態でした。競合がまったくいない“ブルーオーシャン”でのスタートだったのですが、逆を言えば、インドネシア人はリサイクルアスファルトについて印象があまり良くなかった。インドネシアの自治体や政府との交渉を進めようとしても、相手にされずたらい回しにされるばかりでした。そこでJICA(国際協力機構)の協力を仰ぎながら、インドネシアの政府機関や民間企業にいたるまで、リサイクルアスファルトの有用性や価値について説明してまわり、徐々に理解を得ながら事業を進めてきました。現在は2基目のプラントが完成し、2022年にようやく黒字化したというのが正直なところです。

リサイクルアスファルトのプラント1号機

リサイクルアスファルトのプラント1号機

「世界を相手にした仕事を」その一言で進出を決めた
インドネシアへ進出するきっかけはなんだったのでしょうか?

 きっかけとなったのが、2011年の東日本大震災です。復興需要で仕事量が急激に増え、それにあわせて雇用を増やしていったのですが、「こんな状況がいつまでも続くわけがない」と危機感をもっていたんです。そんなときに、気仙沼市と気仙沼商工会議所が「復興にはまず人材を育てることが必要」と、若手経営者向けに経営塾を開いてくれて、私も参加しました。講師陣は日本を代表する大企業や大手銀行の第一線で活躍する方々で、私が開校式で「気仙沼で道路を造っています」と自己紹介すると、返ってきたのが「地元だけでなく世界を相手に仕事をしてみては?」という一言。そこで一気に視野が広がりました。実は、気仙沼市は漁業や水産加工業などでインドネシアから多数の技能実習生を受け入れている地域なんです。そこで、海外に進出するならインドネシアと日本をつなぐ取組みがしたいと考え、当社でもインドネシア人の受入れをスタートしました。今では、帰国した当社の技能実習生が今度はインドネシアのプラントで働くなど、国をまたいだ連携も取れるようになりました。

インドネシアの現地法人のスタッフ

インドネシアの現地法人のスタッフ

従業員を雇用し続けられる環境をつくることが目的
今後の展開を教えてください

 海外進出の根底にあるのは、あくまで従業員を雇用し続けられる経営状況を維持することです。そのためには、地域の活性化が欠かせません。地方でますます進む人口減少は気仙沼も同じで、地元の産業を支えているのは技能実習生や特定技能として来日しているインドネシア人です。彼らがいなくなれば気仙沼に未来はありません。今後も彼らから選ばれる地域でいられるように、事業を通して関係性を築いていくことは非常に重要です。そのためには文化交流も大事で、彼らが生活しやすい環境をつくるために、2019年には市内にインドネシア料理店をオープンし、イスラム教徒がいつでもお祈りできるムショラ※も建設しました。こうした地域コミュニティづくりが評価されて、『2020年度GOOD DESIGN賞』を受賞。また、第4回JAPANコンストラクション国際賞にて中堅中小企業部門で国土交通大臣賞をいただくこともできました。現在は、地域交流を目的としたイベントを開催するなど、国籍を超えての地域活性化を進めています。
※ムショラ:小さな礼拝所

インドネシア料理店(気仙沼市)

インドネシア料理店(気仙沼市)