PERSON / インタビュー

SPECIAL / スペシャル 2024.12.13
JAXA宇宙飛行士

古川聡

「イージーゴーイング」でいこう

 JAXA宇宙飛行士の古川聡さんは、2023年8月からおよそ半年間、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、2024年3月、無事地球に帰還しました。古川さんのISS長期滞在は2度目で、通算滞在時間は日本人で2番目の長さとなりました。そんな古川さんに、宇宙という特殊な空間で外国人クルーと良好なコミュニケーションを築くためのヒントを伺いました。

聞き手:JAC管理部 2024年6月19日取材

PERSON 古川聡 Photo

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配慮はするけど、遠慮はしない
ISSでは外国人とチームワークを発揮するためにどのようなことを意識していましたか?

 基本的な考え方として、お互い人間同士として信頼し、敬意を払って接することを心がけていました。国際宇宙ステーションでの生活は、例えて言えば「寮」での生活に近いと思っています。「クルークォーター」という寝袋で寝たりする個室があるのですが、広さは電話ボックスほどで、それが上下左右に4部屋つながっています。そこに仲間が寝ているので、夜中に大きな音を立てたらまずいわけです。そうした環境での生活を半年ほど続けるには、お互いのプライバシーにしっかり配慮することが大切になります。逆を言えば、そうした気遣いがあるからこそ、本当の同志になれるのです。

物理的に距離がかなり近い空間での生活で、トラブルはなかったですか?

 英語でリラックスやのんびりを意味する「イージーゴーイング」という言葉があります。我々クルーは「イージーゴーイング」の考え方がベースにあるので、ギスギスするようなことは特になかったです。自分なりの強いこだわりを共同生活にもち込むと、息苦しくなってしまうもの。状況に応じて「それでもいいよ」と、お互いの意見を尊重し合うことは大切で、ルールさえ守られていれば、細かいところはあんまりこだわらないのが良かったように思います。もちろん、そうした間柄になれたのは、地上での厳しい訓練で時間を共有したからではありますが。

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クルーとの強い絆を生んだ訓練の内容に興味があります

 例えば緊急事態対処訓練です。急に火災が起こって緊急脱出をするという想定で、仲間が近くにいたら酸素マスクをしっかりつけているかを確認し合います。それからそれぞれの役割として煙が広がるのを防ぐためのハッチやドアを閉めるなど、ひとつ間違えるとおおごとに発展するような作業を、二人1組のバディシステムで連携しながら進めます。そうした緊張感のある訓練を繰り返すうちに、お互いの信頼関係が高まって命を預けられるような関係になっていくのです。

緊急事態を想定したなかでの共同作業が信頼関係を生むわけですね

 はい。また、もうひとつ良かったのは、アメリカでのリーダーシップ訓練です。野外で1週間ほどすごし、テントに寝泊まりするので、心身ともに疲労が出て大変だったのですが、そうした時こそ素の自分が出やすく、お互いをより理解できたんですね。そうやってお互いをより良く知っていき、信頼関係を築いたからこそ遠慮なく何でも言えるようになるのです。そのうえでチームが成り立っていくのですが、ここで注意しないといけないのが、リーダーが強すぎるとほかの人たちが怖くてものを言えなくなるということです。リーダーも完璧ではないので、見えていないこと、気づけていないことが多々あります。そんな時、ほかの仲間が気づいたことを伝えられたほうがチームとしては得になりますよね。訓練ではそうしたことも学んでいたので、意見を言い合える関係づくりはかなり意識していました。配慮はするけど遠慮はしなくていい、そういう関係性を築けたことも今回のプロジェクトの成功の要因だと思います。


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月面基地での作業に日本の技術・技能が活かされる日も
今後の宇宙プロジェクトについて教えてください

 少し先になりますが、JAXAでは月面に基地を建設する構想が練られています。間違いなく世界でも先進的といわれる日本の建築技術が活かされるでしょう。その際、チャレンジングな試みとして、建設資材を地球から現地に持っていくのではなく、現地で調達することが考えられています。例えば、レゴリス(月面の砂)はコンクリートとして活用できる可能性を秘めています。実際に使うとなれば、加工技術が必要になる。いまだ誰もなし得ないことなので、そうした面でも日本独自の技術・技能が役立つはずです。ぜひ建設業界の皆様にも宇宙開発に興味をもっていただきたいと思います。

月面基地とは夢がありますね

 そうですね。基地は月面にある竪穴(たてあな)のなかに作ると言われています。月面は昼夜の温度差が非常に大きく、日向だと100度以上、日陰だとマイナス100度にまでなるとんでもない世界なので、人が活動するのは困難です。そこで、天然の空洞のなかなら温度変化が少なく、放射線からも守られる「自然の要塞」になるのではないかと予測されています。ただし、竪穴を活用するにも特殊な技術と困難な作業が必要になるので、日本の建設業の皆様にも挑戦していただきたいですね。JAXAと日本の建設業が力をあわせれば、きっと宇宙開発に貢献できるはずです。


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対等な「人対人」として、また仲間として、リスペクトをもって接してほしい
最後に、建設現場で働いている方々へのエールを色紙にしたためていただきました。どのような意味を込めたのでしょうか?

 まず来日という決断をし、建設企業で働いている外国人の方々には、日本の建設業界で大きな力となり、躍進してくれていることへのお礼をお伝えしたいと思いました。日本の建設業界にはたくさんの高度な技術・技能があるので、ぜひそれを学んでいってほしいという思いを込めています。そして、そうした貴重な人材を受け入れている企業の皆様にも一言お伝えするなら、彼ら努力する外国人たちを、対等な「人対人」として、また仲間として、ぜひリスペクトをもって接していただければと思います。

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Satoshi Furukawa

JAXA宇宙飛行士
1964年神奈川県生まれ。2011年にISSで約5カ月半滞在し、「きぼう」での実験や最後のスペースシャトルミッションの支援を実施。2023年8月、クルードラゴン宇宙船運用7号機に搭乗し、第69次/第70次長期滞在クルーとしてISSに約6カ月半滞在。微小重力環境を利用した実験や有人月探査に向けた技術実証を行った。