“日本品質”の足場を広め
インドネシアへ安全を届ける
PT. ALINCO SCAFFOLDING INDONESIA
2016年、仮設足場レンタル事業を軸にインドネシアへと本格的に展開したアルインコ株式会社。首都ジャカルタ郊外のブカシに拠点を構え、主に現地の大型工場を中心に“日本品質の足場”を広めてきました。背景には、現地の慣行に合わせるだけでなく、「安全を起点に現場を変える」という経営者の意思と、若手駐在員の挑戦、そして日本の現場を知るインドネシア人の橋渡しがありました。
聞き手:JAC編集部
2025年7月28日取材
PT. ALINCO SCAFFOLDING INDONESIA
President Director
近石 正敬 氏 MASATAKA CHIKAISHI
「足場は命を守る」と語る近石社長
竹で組んだ足場が一般的だった
海外展開の経緯と、現在の事業内容を教えてください
インドネシアへの展開については、準備期間を経て2016年ごろから本格稼働しました。日本では通信技術・フィットネス・はしご・脚立など幅広く事業を展開していますが、こちらでは建設現場向けの仮設足場レンタルに特化した事業を行っています。日本と同等の仕様を輸入し、品質・安全を担保した足場を提供しているのが特徴です。
日本とインドネシアの違いで、まず直面したのは?
仕事においてインドネシアに根付いているのが、「効率よりも雇用を守る」という発想です。たとえば、日本ではボルト締めをインパクトドライバーを使い効率化することは当然ですが、インドネシアで導入しようとすると「3人で終わるなら、20人の仕事が減る」と反発が起きます。その価値観はどの職種でも一貫していて、私たち日本のやり方はすんなりと理解されないという難しさがありました。
溶接作業に励むスタッフ
足場に対する考え方にも違いはありましたか?
進出当初、現場では竹で組んだ足場や規格不明の資材が一般的で、丈夫で安全性の高い足場を導入するという意識はとても薄かったといえます。最初は価格差もあり、日系企業や現地企業問わずまったく採用されない時期もありました。そこで行ったのが、ひたすら現場へ通い、デモンストレーションと説明を徹底し、コストよりもセーフティーファーストであることの重要性を伝える活動です。価格も現地企業の2倍では採用されないため、安全性を強調しながら1.5倍に抑えるなど設定を工夫し、少しずつ採用現場を増やしていった経緯があります。口コミが回り始めると、「安心して作業できる足場」として評判が広がりました。
チームワークの良さがにじむ3人
帰国者が活躍できる場所を用意したい
社内教育で工夫していることはありますか?
現場で重要なのは数量管理と基礎計算です。貸し出した足場の返却数の誤差は、そのまま損失に直結します。そこで、全社員に月曜朝の小テストを実施し、計算力を身につける取組みを始めました。長さや時間を足し算・引き算する簡単な計算問題を出題しているのですが、「96日は何週間と何日か?」「11cm+56mm=?」といった問いに、意外と正答できない人もいます。日本人スタッフが個別にフィードバックし、計算力の向上につなげていますが、査定には反映させず、あくまで適材適所と思考のクセを知ることを目的にしています。
インドネシア進出後の成果について教えてください
インドネシアで、建設の“安全の基準”が上がってきたことです。現地企業のなかには、足場仕様を明確に指定し、ローカル規格では不可という基準を採用するところも出てきました。こうした動きは当社に追い風で、日系品質の足場レンタルは実質当社のみという独自性が強みになりました。一方で、鉄鋼輸入規制やライセンス制度など、外資にとってのハードルは非常に高いといえます。合弁が必須だった時期もありましたが、今は足場レンタルの外資参入が認められ、独資での運営体制を整えました。
フォークリフトで資材運搬
今後の展望を教えてください
日本で技能を積んだ帰国者と連携し、安全・スピードを両立する施工チームを編成して現場に提案する構想を進めています。人件費が安いがゆえに多くの人員を投入する現状から、“少人数・短工期・高安全”への転換を後押しする。日本で経験を積んだ帰国者の活躍できる場を用意することで、“日本品質”の足場を現地に広めていけると考えています。
PT. ALINCO SCAFFOLDING INDONESIA
Marketing Manager
高畠 空 氏 SORA TAKABATAKE
「海外経験を楽しみたい」と高畠さん
“案外どうにかなる”飛び込んだから見えた景色
現在の役割を教えてください
セールスが主な担当です。日本では考えられないかもしれませんが、工事の初期段階に現場に出向き、「いつ、どこに、どの規模の足場が必要か」を聞き出して、安全性や有用性など日本規格の足場を採用するメリットを説明して提案しています。急な引き合いも多いので、現場で決まるスピードに合わせて動く毎日です。
インドネシア駐在の経緯は?
入社当時は経理配属でしたが、忘年会の雑談をきっかけに海外志向を上司に打ち明けたら、トントン拍子で駐在が決まりました。今、入社3年目なのですが、営業や経理、現場の調整など、日本だとそう簡単には任されない領域まで関わることができて、結果的にラッキーだったと思っています。責任は重いですが、事業全体の動きが手触りでわかるのが非常におもしろいですね。
不安だったことはありますか?
やはり言葉は不安でした。でも、日常で使う語彙は意外と少ない。通訳なしでインドネシア人同士のミーティングに飛び込んでみて、わからないながらも会話に混ざることから始めましたが、意外となんとかなりました。今は週2回のオンラインレッスンで語彙を補強しています。また、宗教行事にも現地の同僚と参加し、文化の“肌感”を積みました。職場での距離感が近く、会社までの往復の車内や週末のゴルフまで、上司と日常的に仕事の話ができるのもこの国ならではだと思っています。
社員旅行で盛り上がるスタッフたち
これから海外で働く方にアドバイスをするなら?
海外に興味があるなら、考えすぎず飛び込むのが一番です。言葉も文化も、滞在していればあっという間に慣れるもの。不透明な商習慣や急な依頼など、日本との感覚の違いは確かにありますが、そこでこそ日本式の安全・誠実・段取りの価値が発揮されると考えています。 “案外どうにかなる”を味方に、一歩を踏み出してほしいです。
PT. ALINCO SCAFFOLDING INDONESIA
Technical Marketing Staff
イスラー 氏 ISLAHUDIN
広い資材置き場を案内するイスラーさん
ゼロ災に近づける役割を果たしたい
経歴を教えてください
日本に技能実習生として行き、帰国後も大手ゼネコンや設備関連で経験を積み、2022年9月にアルインコへ入社しました。現在はテクニカル職として、強度計算の確認、組立て仕様の助言、現場の安全指導を担当しています。
日本での経験が活きていると感じる場面はありますか?
まず5Sや報連相といった「現場の作法」です。作業前にリスクの見える化を徹底して、なぜ足場に手すりやエンドストッパーが必要かを理由から伝えています。現地の足場では部材が省略されがちですが、一度“正しい組み方”を体験すると安全性の重要さを理解してくれるので、それまでの危険な仕事の仕方には戻れません。教育後は現場が自走し、次の現場でも正しく使ってくれる人が増えます。
日本仕様の足場導入は進んでいるとか
安全意識をどう根付かせていますか?
現場ごとに日雇いワーカーを含めて短時間トレーニングを実施し、チェックリストで確認しています。そして、“命が先、仕事はその次”という考えを繰り返し共有するのがポイントです。日本のように当たり前の確認が、こちらではまだまだ「新しい仕事の仕方」と捉えられています。だからこそ、理由と体験で腹落ちさせることが重要です。安全はコストではなく、作業者を守り、工程を守り、会社を守る“投資”だと伝え続けています。
今後、日本式の足場を広めていくうえでの課題を教えてください
日本で学んだのは、言い訳より改善という姿勢です。計算や数量管理が苦手なら、できるまで確認する習慣を身につけることが大切。私自身も学んだことを現場にわかりやすく伝え、ゼロ災に近づける役割を果たしたいという強い思いがあります。正しいやり方は、人を守る力になる。それを現場で証明し続けます。
社屋前に並ぶスタッフ一同