日本政府は、結核患者数の多い国から来日する中長期在留者に対し、入国前結核スクリーニングを義務付けます。今回は、制度開始の背景や対象となる国、手続きの流れをわかりやすく整理し、事前に確認すべきポイントを解説します。
弁護士法人 Global HR Strategy
代表社員弁護士
Shohei Sugita
杉田 昌平 さん
弁護士(東京弁護士会)、入管届出済弁護士、社会保険労務士。慶應義塾大学大学院法務研究科特任講師、名古屋大学大学院法学研究科日本法研究教育センター(ベトナム)特任講師、ハノイ法科大学客員研究員、法律事務所勤務等を経て、現在、弁護士法人 Global HR Strategy 代表社員弁護士、独立行政法人国際協力機構国際協力専門員(外国人雇用/労働関係法令及び出入国管理関係法令)、慶應義塾大学大学院法務研究科・グローバル法研究所研究員。
2024年12月末に日本に住んでいる外国人は376万8,977人となっており、在留外国人数は過去最高となっています。特に、新型コロナウイルス感染症による水際措置が緩和された2022年以降の在留外国人数の増加は著しく、2021年末の約276万人から3年間で100万人増加しています。2006年の在留外国人数が約208万人だったことからすると、約18年間で168万人の在留外国人が増加したことになりますが、そのうちの100万人が直近3年での増加となります。
これは、2008年頃に人口減少社会に入り、その後、女性・高齢者などの国内人材の活躍促進を進めてきたものの、いよいよ就業者数に頭打ち感が出たことにより、外国人雇用に対する期待が強まっていることを示しているといえます。
このような外国人雇用への強い期待は、国際的な人の移動を活発化させます。そして、国際的な人の移動が活発化すると、疾病についても、一部感染が広がりやすくなる例もあります。新型コロナウイルス感染症が一つの例だったといえるかもしれません。
今回は、2024年12月26日付(最終改正2025年3月31日付)「入国前結核スクリーニングの実施に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)が策定され行われることになった、「入国前結核スクリーニング」について見ていきたいと思います。
日本の結核患者の発生状況は、人口10万人あたりの新規発病患者数(り患率)及び患者数ともに年々減少傾向にあります。ですが、いまだに国内で年間約10,000人が結核を発症し、約1,500人が死亡しています(ガイドライン参照)。
また、2023年の新登録結核患者数10,096人のうち、外国生まれの患者数は1,619人となっており、り患率の高い国の出生者が日本滞在中に結核を発病する例が見られるようになっています(ガイドラインより引用)。
このような背景から、日本では結核患者数が多い国から渡航し、中長期在留者となる人に対し、入国前結核スクリーニングを開始しました。これは、結核を発病していないことを証明できない場合には入国を認めない仕組みです。
入国前結核スクリーニングは、対象国の対象者に関する在留資格認定証明書交付申請時または査証申請時において、結核非発病証明書の提出を求めるという形で行われます。法律上の根拠は、入管法第7条第1項第2号に掲げる上陸のための条件の適合性を確認することを目的とし、規則第6条の2第2項に規定する「その他参考となるべき資料」として、結核非発病証明書の提出を求めるものです(ガイドライン参照)。また、査証申請時に添付資料として結核非発病証明書の添付を求める点は、原則的発給基準に基づくとされます。
(1)対象となる国
入国前結核スクリーニングは、すべての国を対象として開始されるものではありません。2018年2月26日第9回厚生科学審議会結核部会での決定に基づき、原則として、日本に在留中に結核と診断された外国生まれの患者の出生国のうち、多くの割合を占めるフィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー及び中国を対象国とします(ガイドラインより引用)。これらの対象国は、日本における外国生まれの結核患者数が多い国です(表1参照)。
表1 対象国生まれの結核患者数(2023年)(出典:ガイドライン)
(2)対象となる人
対象は、表1の対象国の国籍を有し、中長期在留者及びデジタルノマド、またその配偶者として日本に入国・在留しようとする人となります。
ただし、JETプログラム※参加者、JICA研修員(長期・短期)、JICA人材育成奨学計画(JDS)留学生、大使館推薦による国費留学生、外国人留学生の教育訓練の受託事業、当該国とのEPA(経済連携協定)に基づく看護師・介護福祉士、特定技能外国人、特区法による家事支援人材などについては当面の間、対象外となります(ガイドラインより引用)。
特定技能外国人が対象外とされるため、建設分野では、技能実習生や在留資格「技術・人文知識・国際業務」で入国・在留する技術者が対象となるといえます。
※JETプログラムとは、語学指導等を行う外国青年招致事業(The Japan Exchange and Teaching Programme)の略
手続きは、在留資格認定証明書交付申請時、または提出していない場合は査証申請時に、結核非発病証明書の提出を求める形で行われます。手続きの流れとしては、図1のとおりです。
図1 入国前結核スクリーニングの流れ(出典:厚生労働省ウェブサイト)
まず、在留資格認定証明書交付申請や査証申請に先立ち、「指定健診医療機関」で受診し、結核の疑いがなければ結核非発病証明書が交付されます。
「指定健診医療機関」については、対象国の医療機関が指定されており、厚生労働省のウェブサイトで閲覧することができます。
証明書の有効期間は、指定健診医療機関で胸部レントゲン撮影を実施した日から180日間です(ガイドラインおよびJPETS Q&Aより引用)。在留資格認定証明書の交付申請に際しては、この有効期間内であることが求められます。
そのため、その後の入国のスケジュール及び在留資格認定証明書のスケジュールと調整しながら結核非発病証明書の交付申請を行うことになります。
また、仮に指定健診医療機関に結核と診断された場合には、結核の治療が完了し、結核非発病証明書の交付が行われるまで、当該在留資格での入国ができません。
調整が済んだ対象国から順次開始されます。結核非発病証明書提出の義務付けが開始される日は表2のとおりです(ガイドラインより引用)。
表2 入国前結核スクリーニングの対象国と開始時期(出典:ガイドライン)
今後、建設分野での技能実習生及び在留資格「技術・人文知識・国際業務」で在留するエンジニアを多く輩出しているインドネシアでも入国前結核スクリーニングが開始される予定です。
開始時に手続を見落とすことがないよう、事前にご確認いただけますと幸いです。