PERSON / インタビュー

SPECIAL / スペシャル 2024.03.29

菊間千乃

勇気づける一言が世界をつなぐ

 菊間千乃さんはフジテレビのアナウンサーとして活躍後、最難関の司法試験に合格し、弁護士として第二のキャリアを歩む経歴の持ち主です。現在は、松尾綜合法律事務所の共同代表社員として、法律相談やセミナー活動を行うほか、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの運営顧問を請け負うなど、人権問題にも取り組んでいます。今回は、そんな菊間さんに企業と外国人就労者がよりよい関係を築くためには何が必要か、JAC職員が取材を行い、ご意見を伺いました。

聞き手:JAC管理部 2023年7月11日取材

PERSON 菊間千乃 Photo

異国の地でがんばっている姿に
思わず目頭が熱くなることがあります。

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認めてくれる人がいると、状況は一変する
日本で働く外国人について、どのように感じていますか?

 職場の近くの東京都港区のコンビニなどでも外国の方が働いているのをよく見かけます。私はすぐ感動してしまう性格なので、異国の地でがんばっている姿に思わず目頭が熱くなることがあります。私も大学3年生のときにイギリスへ語学留学をした経験があって、海外で生活する大変さはよく理解しています。特にコミュニケーションでは大変苦労した覚えがありますね。

具体的にはどんな苦労をされたのですか?

 一番は言葉ですね。当時、日本で英会話教室に通っていて、それなりに英語力があったことから、何を間違ったのか、留学先で一番語学レベルが高いクラスに入ってしまったんです。私ともう一人の日本人以外は、全員欧州から来ていて、スピーキング能力はもちろん、そもそも発音から違うんですよね。私たちはアメリカ英語を習っていますが、ブリティッシュイングリッシュで話しなさいと。そのおかげで、毎日のように先生から「発音が違う」と叱られ、話すのが怖くなってしまいました。言葉数が少なくなると、今度は同級生から「千乃って大人しいのね」と言われる始末です。幼い頃から積極性が何よりの取り柄だった私にとっては、自分のアイデンティティを否定されたような気がして、とてもショックでした。

外国での慣れない生活も心細かったのでは?

 孤独でしたね。公衆電話で日本にいる家族と話しては、「帰りたい」と泣いていました。でも、あるとき、パブで同級生の集まりがあって、私も嫌々ながら参加したのですが、そこで同じクラスのベルギー人の女の子が「あなたはものすごく勇気があるのよ」と声をかけてくれたんです。わけを聞くと、このクラスの人たちは、イギリスからたかだか数時間の距離に生まれ育ち、小さいときから英語にも親しんでいる。でも、あなたは地球の果てにある、言葉もまったく違う国から来ている。それだけですごいことなの、と。だから、私はあなたをリスペクトしていると励ましてくれました。その言葉は私をすごく勇気づけたし、何より自信を持てるようになりました。泣くほど日本へ帰りたいと思っていたのに、それからは彼女たちともっとコミュニケーションをとりたいと思うようにもなりました。結果的に、あれだけ私の発音に厳しかった先生も、卒業するときには「一番成長したのは千乃ね」と言ってくださって、それが心からうれしかった。一人でも自分を認めてくれる人がいると、状況が一変することを学びました。

すばらしい経験ですね

 日本語と似ている言語の国は、世界中を見てもまずありません。日本に来ている外国の方は、そのような環境で働き、生活をしているわけです。それだけでも勇気があることで、だからこそ来日した人が困っていたら、何か手助けしてあげたいと思っています。「ここに来ているだけですごいこと」と、一声かけてあげることは、私と同じくその人をとても勇気づけるはずです。「もっと日本語の勉強をがんばろう」「もっと日本人とコミュニケーションをとろう」と、日本での生活や仕事に前向きになってくれたら、私たちにとってもプラスしかないですよね。


社員はトップの行動を常に見ているもの
受け入れたのなら、信じ切って

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社員は経営者にとって「写し鏡」の存在
受入企業と外国人就労者の関係をよりよくするには、どんな方法がありますか?

 企業側に少しの想像力があれば十分だと思います。例えば、自分の子どもが留学で外国へ行ったとします。ホームステイ先の家族からとても親切にしてもらったと聞いたら、感謝の気持ちがわきますよね。また、その国への好感度も上がるのではないでしょうか。同じように、企業として受け入れた外国の方にも両親がいて、兄弟姉妹がいて、その人を大切に思っている人がいる。そう思うと、その人に対してパワハラをしたり、人格を否定したりすることはできないはずです。なぜなら、自分の子どもや親や大切な人がそんなことをされていると思ったら、誰だって嫌な気持ちになるでしょう。想像力を働かせると、自然とどんな人にもやさしくなれるんです。

逆の立場で考えることは非常に大切ですね

 あとは、受け入れたのであれば、その社員を信じるということも大切だと思います。以前、雑誌の企画で老舗の和菓子屋「虎屋」さんを取材したことがあります。その際社長が、経営について「自分が責められるとしたら、それは社員をとことん信じすぎることだ」とおっしゃっていたことがとても強く印象に残っています。虎屋さんって、どこのお店に行っても、皆さん気持ちのいい接客をしてくださるのですが、通り一遍じゃないんですよ。お客様に対して社員一人ひとりが自分なりのおもてなしをするからこそ、お客様の心が動く、とおっしゃっていました。そして、社長はそういう社員を徹底的に信じていて、上から押さえつけたり、あれをしなさい、これをしなさいと指示をすることはないということなんです。経営層と社員の信頼関係があるからこそなんでしょうけど、社員の方が自分の頭で考えて行動している、自律した個の集団、と感じました。だからこそ、心からのおもてなしができて、それがお客様の感動を呼び、手土産といったら虎屋というブランドイメージにつながっているのでしょうね。

トップの考えが社員にきちんと伝わっていることもすばらしいと思いました

 仕事柄、経営理念を社内に浸透させようと努力している企業を多く目にします。しかし、理念はトップ自らが実践し、社員がその姿を見て、自然と学んでいくものであって、強制されて身に付くものではないと思うんです。社員は必ず経営者のことを見ています。もし社員が理念に反する行動をしているのなら、まず経営者が自らの行動を疑問視しないといけません。つまり、社員は経営者にとって写し鏡の存在なのです。自分がきちんと理念通りに行動し、働いていれば、自然とよい社員とのご縁がつながるし、理想的な人材が育つはずです。少なからず、私が尊敬する経営者の方々は、皆そうした考えを持っていらっしゃいます。


「日本を選んでよかった」と
笑顔で働いてもらうために何ができるか

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わかろうとする姿勢をもつことが何より大事
トップとして社員を信じることが大事になる、と

 そうだと思います。とはいえ、外国の方の受入れをしている経営者にとって、国籍が違う方と接することは不安でしょうし、理解できないことには否定的になることもあるでしょう。まずはわかろうとする姿勢をもつことが何より大事だと思います。そして、人と人がわかり合うためには、まず自分から相手を理解しようとするべきだし、理解することで初めて相手にも自分のことを理解してもらえる。理解し合って、話し合えば、いがみ合いや争いは起こらないはずなんです。これは大袈裟ではなく、世界平和につながる話だと思っています。

社員を信じ切るためのコツはありますか?

 私の場合、すべての物事は「ギブアンドテイク」だと考えるようにしています。例えば、車を運転していて、強引に横入りしてくる車がいたとします。そこで怒らずに譲って、「一つ貸しを作った」と思うようにしています。そうすると、次に自分に困ったことが起きたとき、きっと神様が手助けしてくれる。そんなふうに考えるようにしていると、また別の機会に何かすごく得をしたら、「きっとあのとき、前を譲ったからだ」と思えるんです。そうすると、嫌なことがあってもそれすら楽しめる。これが受入企業のトップだったら、外国の方とのコミュニケーションがうまくいかない、育成が行き詰まるなど、そうした問題を「神様に貸しを一つ作った」と考えてみてはいかがでしょうか。そうやって世の中はまわっていると思うと、信じることもそれほど怖くなくなります。なぜなら、どんなことが起きても、きっといつかは帳尻が合うのですから。

素敵なお話をありがとうございました。最後に、読者にメッセージをください

 今、日本に多くの外国の方が来てくれるのは、皆さんのような受け入れる企業があるからこそです。実際に一緒に仕事をしているだけで、すばらしいことだと思います。海外から働きに来ている方々は、世界の国々のなかから日本を選び、さらに数ある企業のなかから皆さんの会社を選んで来てくれたわけです。それは、とてつもない確率で生まれたご縁と言えます。そんな人に対して、「日本を選んでよかった」と笑顔で働いてもらうために何ができるかを考えるのは、とても楽しいものです。それはそのまま社会貢献となり、世界平和につながっていくこと。ぜひ誇りを持って、一人でも多くの外国の方と唯一無二の関係を築いていっていただきたいと思います。


Yukino Kikuma

1972年東京都生まれ。1995年フジテレビに入社し、バラエティや情報・スポーツ番組など数多く担当。退社後、第64期司法修習を経て弁護士となり、2011年弁護士法人松尾綜合法律事務所に入所。紛争解決、一般企業法務、コーポレートガバナンスなどの分野を中心に幅広く手掛けている。