海外で日本の建設現場を支える
“プロフェッショナル”を育てたい
高石学校・日本建設訓練センター
日本の建設業界の人手不足解決に向け、「高石学校・日本建設訓練センター」校長の高石常雄さんは、ベトナム・インドネシアで人材育成に取り組んでいます。単身ベトナムへ渡り、ゼロから技能を学べる場を設立。言葉の壁や文化の違いを乗り越え、即戦力となる人材を育成し、日本の建設現場へ送り出しています。現在、同校は技能習得だけでなく、日本での就労に必要な知識も指導し、業界の発展に貢献しています。
聞き手:JAC編集部
2024年9月28日取材
高石学校・日本建設訓練センター
校長
高石 常雄 氏 TSUNEO TAKAISHI
「授業が楽しいと技術習得も早い」と高石さん
言葉も通じない異国の地で建設業の学校をつくる
高石学校・日本建設訓練センターについて教えてください
高石学校・日本建設訓練センターは、日本の建設業で活躍できる特定技能外国人や技能実習生を育成するために設立された訓練施設です。主にベトナム人の若者を対象とし、日本の建設現場で求められる技術や知識、安全管理の基礎を体系的に指導しています。このセンターは、単に技術を教えるだけでなく、日本の建設業の文化や職場でのコミュニケーション能力、チームワークの重要性まで総合的に学べる場となっています。特定技能外国人・技能実習生として日本に渡る前に必要な知識を習得し、即戦力として活躍できるよう準備することを目的としています。
足場の組立て訓練
なぜベトナムで学校を設立しようと考えたのですか?
きっかけは、2011年の東日本大震災でした。震災後の復興において、日本の建設業界は深刻な人手不足に陥り、「このままでは建設業が立ち行かない」「海外からの人材確保が必要だ」という声が相次ぎました。私もその危機感を抱き、海外での人材育成に踏み出しました。
それまで日本で大工として働いていましたが、海外での人材育成は初めての経験でした。日本の職人文化は「見て覚える」ことが基本ですが、海外の人にはこの方法が必ずしも通用しません。また、言葉や文化の違いから、日本では当たり前の安全管理や時間厳守の意識が十分に伝わらないなど、適切な教育環境の必要性を痛感しました。そこで、日本に送り出す前にしっかり学べる場として、学校を作ることにしたのです。
座学にも集中して取り組む生徒たち
ベトナムでの最初の苦労は?
最初の1〜3年は本当に大変でした。私は日本語しか話せなかったため、現地の人々と意思疎通ができませんでした。そこで、知り合いの日本の組合関係者に通訳を依頼しながら、ベトナムの送り出し機関と交渉を重ねました。しかし、当時は多くの送り出し機関は工場や農業向けの研修には力を入れていたものの、建設業の教育にはほとんど取り組んでいなかった。「なぜ建設業だけ訓練が必要なのか?」と疑問を持たれ、なかなか協力を得ることができなかったのです。
「もう自分でやるしかない」と腹をくくりました。送り出し機関に頼るのではなく、自ら学校を設立し、送り出し機関の生徒を受け入れる仕組みを作ろうと決意したのです。倉庫を借り、小規模からのスタートでした。資金も限られていたため、手持ちの設備を活用し、最低限の環境で授業を始めました。
学校を設立してからも、授業の進め方やカリキュラムの作成には試行錯誤の連続でした。当初は実技を中心に指導していましたが、安全管理や基礎知識の重要性を痛感し、座学の時間を増やしました。そうした調整を繰り返すうちに、徐々に学校の形が整っていったのです。
作業前に安全管理のルールを細かくチェック
何か問題が起こったら遠慮せず電話してほしい
学校で最も重視していることは何ですか?
何よりも安全です。日本の建設業の現場では、安全管理が徹底されていますが、海外では必ずしもそうではありません。そこで私は、まず教材を自作し、安全教育を最優先にしました。日本では大きな現場には必ず「安全の手引き」と呼ばれる分厚いマニュアルがあります。それを各社の社内教育で活用しているのです。
私はこれらを徹底的に読み込み、内容を理解し、自分の頭にしっかりと入れてきました。そうすることで、大手建設企業が行っている安全教育のエッセンスを把握し、それをわかりやすく解読した教材を作成することができました。これをもとに、訓練生は学校に入ると、最初の2週間で徹底的に安全管理を学びます。そして、危険な作業の回避方法、適切な道具の使い方、現場のルールを細かく指導しています。
日本語の教科書で建設現場の用語を学ぶ
学校での教育の特徴は?
日本の職人文化は「見て覚える」ですが、それでは時間がかかります。そこで私は、体系的に教えることを意識しました。まず、図面の読み方から指導します。図面を理解できれば、自分で考えて動けるようになります。次に、工具の使い方や加工の仕方を実践的に教えます。ただし、単に使い方を覚えるだけでなく、効率よく作業を進める方法も伝えます。特に、限られた時間のなかで正確に作業を行う力を身につけることが重要です。また、仕事の流れを覚えることも欠かせません。実際の建設現場では、指示を待つだけでなく、自ら判断して動く力が求められます。そこで、授業では現場を想定した実習を取り入れています。
壁に貼られた建設現場用語一覧には方言も記載
学校を運営するなかで課題に感じていることは?
私が何より問題視するのは、この学校で学んだ人が日本で失踪してしまうことです。これは本当に悲しいことです。その背景には、お金の問題もあるだろうし、知り合いにそそのかされて別の仕事を選択するなど、いろいろあるようです。でも、一緒にがんばった生徒だから、心苦しくてなりません。だから、そうならないように、「何か問題が起こったら連絡をください」と、送り出す生徒には私の携帯番号を教えています。また、私が日本に帰った時は、彼らが働く現場が近いようだったら様子を見に行くこともあります。一生懸命にがんばっている姿を見ると、「本当によかった」と心からうれしくなりますね。
校長自ら教壇に立ち、図面の読み方を指導
教え方は「質問がくる」ようでないとだめ
日本の受入企業に育成のアドバイスをするなら、どんなことを伝えますか?
一番大事なのは「楽しさ」です。訓練を受ける生徒たちが「やらされている」と感じてしまうと、なかなか身につきません。だからこそ、私は学ぶこと自体を楽しめるような工夫をしています。作業ができるようになると自然と楽しくなるので、「まずは簡単な作業から始めて、できる達成感を積み重ねる」という流れを大切にしています。
また、「なぜこの作業をするのか」「何のためにこの道具を使うのか」を理解させたうえで実践させることも重要です。ただ「これをやれ」と言うのではなく、作業の意味を考えながら取り組ませる。そうすると、自然と彼らから質問がくるのです。逆を言えば、質問がこない教え方はだめだと思う。「あの作業のやり方がわかりませんでした、どうすればよかったのですか?」と会話が始まって、初めて知識や技術が身につくというもの。だから私は普段から、生徒に教える時は「わかりました」ではなく、「わかりません、教えてください」と言ってもらえるように努力しています。
センター内に建つ校舎
今後の目標について教えてください
これからの目標は、1年間の学びで即戦力として送り出せる人材を育てることです。これまでは短期間の育成が中心でしたが、より長期のカリキュラムを設け、実践的なスキルを習得できる環境を整えたいと考えています。
私は、日本の建設業界にとって本当に必要なのは「プロ」だと考えています。これまでは技能実習制度の枠内での育成が主流でしたが、特定技能制度の導入により、日本で長く働ける仕組みが整いつつあります。それならば、単なる作業員を育てるのではなく、技能を身につけたプロフェッショナルを育成することが重要になるはずです。日本の企業も、本音では「プロの職人がほしい」と思っています。だからこそ、私は「ベトナムでしっかりとプロを育て、日本に送り出す」ことが最善の方法だと考えています。長く働き、現場で活躍できる人材を育てるために、これからも全力で取り組んでいきます。
建設現場を再現し、実際と同じ環境で作業を体験