2022年から議論されてきた技能実習制度および特定技能制度の見直しについて、2024年6月に技能実習制度を育成就労制度へ改革する育成就労法が成立し、公布されました。今回はこの育成就労制度の概要を見ていきたいと思います。
弁護士法人 Global HR Strategy
代表社員弁護士
Shohei Sugita
杉田 昌平 さん
弁護士(東京弁護士会)、入管届出済弁護士、社会保険労務士。慶應義塾大学大学院法務研究科特任講師、名古屋大学大学院法学研究科日本法研究教育センター(ベトナム)特任講師、ハノイ法科大学客員研究員、法律事務所勤務等を経て、現在、弁護士法人 Global HR Strategy 代表社員弁護士、独立行政法人国際協力機構国際協力専門員(外国人雇用/労働関係法令及び出入国管理関係法令)、慶應義塾大学大学院法務研究科・グローバル法研究所研究員。
日本の在留外国人は、2023年12月末時点において約341万人と、過去最高となっています。増加数を見ると、2022年12月末に約307万人だっ た在留外国人数は、約33万5,000人も増えていることがわかります。33万5,000人という数字は、埼玉県越谷市や福島県いわき市に匹敵する規模になります。
また、仮に毎年33万5,000人の規模で増加した場合、2年間で67万人が増加することになりますが、67万人という規模感は高知県、島根県、鳥取県の人口と同じかそれよりも多い数字となります。
このように、1年で市が1つ、2年で県が1つ増えていくようなペースで在留外国人は増加しており、それに伴って外国人雇用も増加しています。この背景には、少子高齢化による担い手不足があることに疑いの余地はありません。
そして、外国人雇用の増加を牽引するのは「技能実習制度」であり、「特定技能制度」です。実際に、直近の同在留資格での入国者数を見てみると、2023年に技能実習制度は18万3,030人、特定技能制度は4万3,626人と、在留外国人の増加に対して大きく寄与しているといえます。
このように、日本の外国人雇用制度において重要な役割を担う「技能実習制度」および「特定技能制度」ですが、両制度は「技能実習制度」を発展的に解消し、「育成就労制度」とする改正が行われました。
技能実習法および特定技能制度が創設された際の改正入管法の附則に、それぞれ見直しが定められていたため、2022年の年末から両制度の制度見直しが開始されました。両制度の見直しは、①有識者会議、②与党提言、③政府方針、④改正法の成立という順番で進行しました。また、これと並行して後述の特定技能制度における人数枠の再設定と産業分野の追加が行われてきました。
これらの流れを図にまとめると、図1のとおりとなります。
図1 育成就労制度創設への流れ(筆者作成)
最終的に、2024年3月15日に技能実習法などを改正する法案(育成就労法案)が国会に提出され、6月14日に参議院本会議で改正法が成立し、6月21日に公布されました。
育成就労制度は、①段階的な日本語能力の習得、②職種、③転籍の3点に特徴があるといえます。(図2)
図2 育成就労制度の概要(筆者作成)
・ポイント1 段階的な日本語能力の習得
新たな制度である「育成就労」では、就労開始前、「特定技能1号」移行時、「特定技能2号」移行時に、それぞれ一定の日本語能力がなければ就労開始ないし移行ができない制度となることが検討されています。
各段階で必要とされる日本語能力および技能水準をまとめると図3のとおりです。
図3 育成就労制度の人材育成の内容(筆者作成)
このような段階的な日本語能力の習得が制度化されることで、より日本語教育の充実化が図られるものといえます。また、技能に関する段階的な修得についてもこれまでと同水準の技能の修得が必要となります。
・ポイント2 職種
育成就労制度では、対象となる職種の考え方がこれまでの技能実習制度における「職種・作業」から、特定技能制度の考え方である「産業分野・業務区分」に統一されます。
建設業分野では、22職種33作業が設けられていますが、今後、特定技能と同様に産業分野・業務区分の考え方に整理されることになります。
・ポイント3 転籍
新たな制度である「育成就労」では、①やむを得ない場合の転籍の明確化・円滑化と、②一定の本人の意向による転籍を認めることが検討されています。
「やむを得ない場合」については、労働条件の相違によっても転籍を認めるよう柔軟化が指向されており、これまでより、より丁寧な労働条件通知を行うなど、「聞いた話と違う」といった事態が生じないように労働条件の説明を行う必要性が高まることが予想されます。
これまで見てきた育成就労法案が国会に提出される流れと並行して、特定技能制度においては開始から5年が経ち、当初設定された5年間で約34万人の受入れ人数枠について、2024年4月1日以降の人数枠をどうするかが検討されてきました。
そして、2024年3月29日に閣議決定が行われ、2024年4月から5年間の受入れ人数枠を82万人とし、建設業分野は8万人の受入れ枠が設定されています。
最後に、育成就労法の施行のスケジュールについて見ておきたいと思います。
法の附則によれば、育成就労制度に関する改正法は公布後3年以内に施行されることとなっています。つまり、育成就労法は2024年6月14日に成立したため、2027年6月までに施行されることになります。
この時の経過措置ですが、まず、育成就労制度が開始される時点まで、現行の技能実習制度での受入れは可能です。現行の技能実習制度で入国した者については、原則として、現行の在留資格「技能実習」により2号実習まで実施可能となります。
また、技能実習計画の認定申請中など、手続きの最中であった場合、施行後3カ月以内に入国できるようであれば、従前の在留資格「技能実習」での入国が可能であり、同様に原則として2号実習まで実施可能となります。
そのため、2027年4月1日に育成就労法が施行されると仮定した場合には、最後の技能実習生は2027年6月末に入国することとなり、2030年6月頃に帰国することとなります。
なお、この仮定の場合2027年7月以降の新規入国は育成就労制度によることになり、現行の技能実習制度で在留する者は徐々に帰国していき、2030年7月頃に完全に育成就労制度に切り替わることになります。
今回の改正は、30年にわたり日本の技能労働者の受入制度の中心的な役割を担ってきた技能実習制度を改革するものであり、送出国から見た国際労働市場でも、日本の国内の実務においても、非常に大きな影響のある改正になると思われます。
今後は、現行の制度での受入れおよび実習や就労を適切に行いつつ、並行して育成就労制度への対応の準備を進めていくことが望ましいといえます。